2015/10/20 22:49

まだ十代の頃に憧れて働き始めた珈琲店の
民藝とモダンが入り混じったような店内のすべて。

これから世界に自分で触れていくような時期の私には
それらひとつひとつのルーツのようなものはわからないまま
これがなんだかわからないけど好きだ、といった感じで
好きだった。

暗い店内に白く、すこし青ざめてつやつやとしていたお砂糖壺もそのひとつ。
お店のひとみんなが、シュガーポットではなく「お砂糖壺」と呼ぶ。
「これは割らないように気を付けてね」と最初の頃に注意されたので
閉店の時にテーブルからひとつひとつ回収して、
中のお砂糖を密閉容器に移し替えるときの私はとても気を付けていました。

きれいなお砂糖壺、きっと高いんだろうな、
大人はみんな知っているような器なのかな、
子供の頃から、質問するという行為に私はずいぶん慎重だったような気がする。
その分野についてなにも知らないまま質問をしてよいのか
そんなことを考えていました。
あるとき、
「マスター、このお砂糖壺、どこの器なんですか」と
聞いてみると「〇〇さんですよ」といつものようにあっさりとした返事。
どこの地域の、どんな、、、
そんな質問を続けて出来ないような女の子だった。
もうちょっと、詳しくなったらまた聞いてみよう、、

そうしてずいぶん長い時間が経ちました。
マスターが答えてくれた名前も、いつの間にか忘れてしまったのですが
あのお砂糖壺のことは、いつかお店をするときにはそれを探して
お店で使うんだ、と当然のように思っていました。

先日、少し前に故郷に戻った友人を訪ねて、
宍道湖のほとりの街に行きました。
その友人が連れて行ってくれた喫茶店は、
県内にあるやきものの珈琲カップを選ばせてくれて
そのカップで飲ませてくれるということでした。
マップと写真を見ながら、わたしは、あのお砂糖壺を思わせるような
しろい器を選びました。
とても似ているけど、窯の名前がマスターの言っていたのとは
違うような気がする、、

その街から帰ってきて、突然なぜか思い出しました。
マスターの声で。
「マスター、このお砂糖壺、どこのなんですか」
「石飛さんですよ」
調べてみると、雲南の白磁工房の石飛さん、だったのです。

自分の好きなものを見つけてあの店を作っていったマスターが
そろそろ教えてやろうかね、と
ニヤリとしているのを想像しながら
突然思い立ってその地に向かったことが面白く思えたのでした。